2019年12月17日(火)発売

社会課題の「最前線」で「最善戦」を続けていくために

地方都市の風俗店で働くシングルマザーが置かれている状況には、「家族」「就労」「社会保障制度」「人口減少」「ジェンダー」、全ての課題と論点が詰まっている。その意味で、現代の社会課題を最もリアルに映し出す鏡である、と言えるだろう。

シングルマザーの貧困に関しては、これまでにも個人の生活を追ったルポがいくつも出されている。シングルマザーが生活に困窮する背景にある社会構造を分析し、彼女たちと子どもの生活を安定させるための政策提言を行っている書籍や研究も数多く出されている。

ただ、ミクロな個人のルポだけに焦点を当てると、逆に問題の全体像を見誤るリスクがある。またマクロな制度論を語るだけ、問題の全体像を提示するだけでは、当事者の苦痛や不安を消すことはできない。

シングルマザーを巡る問題を適切に理解するためには、個人の生活を追うだけ、社会構造や制度の問題を指摘するだけでなく、彼女たちが実際に生活している地域という文脈の中で、彼女たちが抱えている問題がどのように生成されているのかを知る必要がある。

本書では、ミクロとマクロの狭間にあるメゾの世界=一つの地方都市に舞台に絞って、その街の風俗店で働くシングルマザーたちの姿、及び彼女たちの行動や思考を規定している家族・地域・制度などの文脈を描き出していく。

今必要なのは、単なるルポや制度論を超えた、具体的な知恵である。不安定な毎日を、不安定なままで乗り切っていくためのスキルと情報こそが求められている。

人口減少の時代、安定した働き口を得られない、そして公的サービスの拡充も望めない中で、どのように自分たちの生活を安定させ、どのように次世代の子どもを育てていくべきか。

こうした問いは、他でもない私たち自身に課された問いでもあるはずだ。
そう考えると、地方都市の風俗店で働くシングルマザーは、社会課題の「最前線」で「最善戦」している先駆者だといえる。

今必要なことは、誰が味方(正義)で、誰が敵(悪)なのかを区別することではない。どれが正解で、どれが不正解なのかを議論することでもない。

彼女たち、そして私たちが、社会課題の最前線で最善戦を続けていくための最適解を探し出すこと。そして、その最適解を当事者と社会に届く形で発信していくことだ。

本書に登場する女性たちは、「シングルマザー」や「風俗嬢」である前に、地方都市で生きる一人の女性であり、子どもを愛する一人の母親である。

シングルマザーや風俗に関する固定観念はいったん脇に置いて頂き、その上で「自分が彼女たちの立場だったらどうするか」と考えながら、あなたの住んでいる街、あるいは知っている街の風景と重ねながら、読み進めてほしい。

目次

はじめに 子供たちがひしめきあう託児所

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第一章 地方都市の風俗店で生きるシングルマザー
第二章 生活と子育てを安定させるために
第三章 義実家という名の牢獄
第四章 たった一人の自宅出産
第五章 彼女たちが「飛ぶ」理由
第六章 「シングルマザー風俗嬢予備軍」への支援
第七章 風俗の「出口」を探せ
第八章 「子どもの貧困」と闘う地方都市
終章 「家族」と「働く」にかけられた呪いを解く
おわりに
シングルマザーが生活や仕事で困った時の相談窓口

*未掲載エッセイ(『青春と読書』のサイトで読めます)

「名前のない幼稚園」で 「お友達」と過ごした一日

イベント情報

●2020年1月10日(金) 下北沢B&Bで対談イベント(20時~22時)

坂爪真吾×雨宮処凛
「地方都市と性風俗シングルマザー~貧困の現在を語ろう」
『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』(集英社)刊行記念

●2020年1月11日(土) 講演会「新潟市における女性と子どもの貧困 ~シングルマザーと性風俗の視点から考える~」を開催(新潟市中央区)

『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』の内容をベースに、認定NPO法人しんぐるまざぁず・ふぉーらむ理事長の赤石千衣子さんをゲストにお招きして、新潟市におけるひとり親支援、女性と子どもの貧困について、徹底的に議論しました。

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